iTeachers
教育ICTを通じて「新しい学び」を提案する教育者チーム
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The Other Side
〜イノベーターたちの素顔〜
iTeachersメンバーや、教育ICTの分野で活躍する先生たちの取り組みをレポートするWeb連載。iTeachersのマネージャー的存在である、ライターの神谷加代さんが、それぞれの教育現場を取材。保護者そして主婦の視点から、先生たちの素顔に迫ります。
小学生2人の母親。結婚を機にサンフランシスコに渡米し、10年の在米生活を経て2010年に帰国。その後、主婦ブロガーとして 「家庭×教育ICT」に関する話題をメインにした『主婦もゆく iPad一人歩記』を執筆。家庭や教育におけるICTのあり方を主婦目線で描き、教育関係者をはじめとする多くの読者から支持を得ている。現在は教育ICTの分野を中心にライターとして活動中。著書に『iPad教育活用 7つの秘訣』
主婦ブロガー/ライター
神谷 加代
Kamiya Kayo
<記事一覧>
第2回
俊英館 小池幸司先生 / 広尾学園 金子暁先生 / 附属新潟小 片山敏郎先生
タブレット活用の「導入」「実践」「これから」すべてのフェーズで大切な“つながりと広がり”
2013年10月14日の三連休最終日、「あしたの学校」というICTを活用した教育について考えるシンポジウムが長野県伊那市で開催され、iTeachersの先生が3人も登壇されるということで取材に行って来ました。講演されたのは、俊英館の小池幸司先生、新潟大学教育学部附属新潟小学校の片山敏郎先生、広尾学園中学校高等学校の金子暁先生で、会場となった伊那市創造館には100名近い関係者が集まり、教育×ICTの熱いトークが繰り広げられました。
豊かな自然に恵まれた長野県伊那市では、情報基盤社会を意識した街づくりが進められており、地域情報のデジタルコモンズ(電子情報の共有財化)に取り組むなど様々な試みが積極的に行われています。開催されたデジタル活用教育シンポジウム「あしたの学校」(伊那谷デジタルコモンズ・デジタル・フォーラム主催)も、「地域」と「情報」の新しい在り方を考える取り組みの一環で、教育現場へのICT活用もそうした地域社会の動きが後押ししているようです。
三連休の最終日にもかかわらず、会場に足を運んだのは100名近い関係者。そのうち、9割近くが“現場の先生”だということで、この地域における「教育×ICT」への関心の高さを改めて感じることとなりました。基調講演には長野県教育長の伊藤学司氏とソフトバンクモバイル首席エバンジェリストの中山五輪男氏を迎え、iTeachersを含む4名の先生方から事例発表が、また登壇者全員によるトークセッションも用意されるなど充実した内容になりました。
事例発表のトップバッターで登場したのが、俊英館の小池幸司先生。進学塾を首都圏で展開する同社は、塾業界の中で最も早くiPadを導入した実績があります。その旗振り役であった小池先生からは、タブレットを導入する際の事例やヒントが紹介されました。
学習塾である以上、タブレットを生徒一人につき1台所持させるのは難しく、同社では講師のみがiPad miniを持って、プロジェクターに映写して使用しているとのことです。
ですが、それだけでも効果を出すことは可能で、板書の時間を短くしたり、効率よく動画を見せたり、また子どもの回答をプロジェクターに投影したりするなど、講師がタブレットを1台持つだけでも授業のスタイルは変わると話されていました。
ただし、タブレットを導入した後は、コンテンツ選びやプラットフォームづくりが課題になるようで、この部分を、自社だけで何もかもやるのは難しいということ。そのためには、ヒューマンネットワークを作って、他社や他の現場と結びつき、コラボしながら進めていくのが望ましいということで、学校の先生方においても、一人ですべてをやろうとしないことが、ある意味、理想的な形なのではないかということです。長期的にデバイスを活用していくためにも、先生自身が“人とのつながり”の中で使用すること、その大切さを感じる内容でありました。
続いては、新潟大学教育学部附属新潟小学校の片山敏郎先生。小学校教諭でもあり、日本デジタル教科書学会会長でもある片山先生は、受け持ちの6年生で行ったiPadを使った協働学習のお話がありました。
片山先生が行ったiPadを使った協働学習というのは、マンガ都市として全国へのアピールを狙う新潟市の取り組みに、子どもたちを関わらせるというもの。学校の外に出て地域の人と関わりながら、子どもたち自身が地域社会のためにできることを考えるというもので、アニメ情報館を見学しそこの職員にインタビューをしたり、教室内では外で得た情報や知識をまとめて発表したり、さらには、調べたことをもとに、自分たちが街に出て宣伝してみたりと、地域とつながりながら、学びが展開していく様子がよくわかる内容でした。
そのような学習の中においては、iPadはツールでしかないのは言うまでもありませんが、片山先生曰く、「子どもたちの探求のサイクルにおいて、そのひとつひとつの過程にデバイスを取り入れると幅が広がる」というお話から、単なる学ぶためのツールというよりかは、学びを“広げる”ためのツールとして機能していることが分かります。
同じく小学校の事例として登壇された京都府亀岡市立南つつじヶ丘小学校の広瀬一弥先生も「iPadは思考過程を可視化しやすい」や「同じプレゼンでも映像とともに言葉を伝えることができる」など、従来の学ぶスタイルではできなったかった部分を“広げる”ためにiPadを用いていることが分かりました。
最後は、広尾学園中学校高等学校の金子暁先生。同校では、2007年から段階的にBYODが実施され、2014年度には全校生徒の2/3がなんらかのデバイスを持って学校にくる環境が整うとのこと。過去に生徒数が激減し、様々な学校改革を迫られたでは広尾学園は、その改革のひとつとしてiPadの導入を進めており、このデバイスを導入する際に、物を入れるだけでなく、「学習スタイルと学園生活の質を変える」という新しい考え方も導入したことが、現在の成功に繋がっていると考えられます。
そんな経緯から、金子先生が言われるのには「ICT教育を進めるためには、学習スタイルの転換が必要」だということです。従来の学習スタイルにとらわれることなく、生徒に「環境」と「機会」を提供し、学校の枠を超えていけるような使い方をすることが、これからのICT教育ではさらに必要になってくるのではないかということで、「もはやデバイスの数や設備の話ではなく、そこで展開される“生徒の学び”自体が問われる段階に入った」という言葉は、とても印象的に残りました。
というわけで、今回のイベントでは、3名のiTeachersの先生を追いかけて東京から伊那市まで取材に行った私ですが、伊那では、iTeachersの先生だけでなく、ほかにも熱心な先生方に出会えて貴重な話をたくさん聞くことができました。今後も伊那市のICT教育をフォローしていきたいと思っています。
筆者KAYO の ひとりごと
「金子先生、三連休最終日だというのに帰りの特急チケットを予約してなくて『帰れないかもー!』の大騒ぎ。勘に頼らずICT使ってよ!」
「世界一受けたい!親子iPad授業 〜iTeachers Special Live in Yokohama 〜」レポート
iTeachersカンファレンス 2014 Spring 〜教育ICT、成功への分岐点〜 (前編)
永野 / 片山 / 小酒井 /金子 / 栗谷 / 小池 先生
iTeachersイベントレポート<後編>
「iTeachers × iStudents プレゼンLIVE
〜ICTで変わる“新しい学び”のアイデア〜」
永野 / 片山 / 小酒井 /金子 / 栗谷 / 小池 先生
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