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教育ICTを通じて「新しい学び」を提案する教育者チーム
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The Other Side
〜イノベーターたちの素顔〜
iTeachersメンバーや、教育ICTの分野で活躍する先生たちの取り組みをレポートするWeb連載。iTeachersのマネージャー的存在である、ライターの神谷加代さんが、それぞれの教育現場を取材。保護者そして主婦の視点から、先生たちの素顔に迫ります。
小学生2人の母親。結婚を機にサンフランシスコに渡米し、10年の在米生活を経て2010年に帰国。その後、主婦ブロガーとして 「家庭×教育ICT」に関する話題をメインにした『主婦もゆく iPad一人歩記』を執筆。家庭や教育におけるICTのあり方を主婦目線で描き、教育関係者をはじめとする多くの読者から支持を得ている。現在は教育ICTの分野を中心にライターとして活動中。著書に『iPad教育活用 7つの秘訣』
主婦ブロガー/ライター
神谷 加代
Kamiya Kayo
<記事一覧>
第7回
玉川大学工学部 マネジメントサイエンス学科 准教授 小酒井正和 先生
ICTを活用しているからこそ知ってほしい。
交流して生まれるもの、リアルな集まりの大切さ
9名いるiTeachersの先生たち。皆さん、とても個性的で魅力的な先生なのですが、そのなかでも一番強力な個性の持ち主ともいえる、玉川大学工学部マネジメントサイエンス学科の小酒井 正和先生を今回は紹介します。iTeachersのイベントでは、いつも独特の語り口調でプレゼンを披露してくれる小酒井先生。その研究室で学び、この春、卒業したばかりの所属学生・北見紫織さんの発表も一緒にレポートします。
東京都町田市にある玉川大学は、幼稚部から大学、大学院までがひとつに集う総合学園で、広大な敷地内には、東京とは思えないくらい豊かな自然が残っています。異国感のある建物と自然の調和が美しく、キャンパス内を歩くだけでも四季折々の景観が楽しめるような雰囲気です。
そんな素敵な場所に研究室を構える小酒井先生を訪れた日は、同大学から画期的な発表がプレスリリースされた日。2014年度の春から、紀伊国屋書店と共同で教科書の販売に電子書籍を導入するという取り組みは、学生は各自の希望に応じて「紙」と「電子」のいずれかから教科書を選べるという仕組み。美しい自然が多く残る大学の景観とは対照的に、教育のICT化には積極的な校風のようです。
校内を歩いていても、ICT活用への積極性を感じます。カフェテリアや食堂など、いたる場所で学生がPCを使っている光景を目にします。後に小酒井先生に話を聞いたところ、校内はほぼ全域で無線LANが使用できる状況にあり、また学生は全員、入学時にPCを用意するようになっているといいます。教科書を紙と電子に選べるようにした新しい取り組みも、こうした下地があってこそだと納得です。
そんな校風もあるせいか、小酒井先生も専門はIT投資マネジメント、経営学者でありながら、ご自身の授業や学生の研究活動に対して、ICTの積極的な活用を勧められています。研究室所属の学生には、iPadやiPad miniを貸与するだけでなく、ICTのメリットを大いに生かした取り組みも幅広くされていて、なかでも他大学の研究室と連携した共同プロジェクトは、物理的、時間的な制限を超えた新しい学びの場を学生に提供しています。
「士農工商ゼミ」と名付けられたその共同プロジェクトは、農学部・工学部・商学部の学生が一緒になって取り組むプロジェクトで、学生たちは違う大学の研究室に所属する学生と協力しながらひとつの研究課題を進めていきます。今年度は、キャンパスの景観分析をテーマにし、離れた学生同士がICTを有効的に活用しながら研究活動に取り組みました。
ただし、小酒井先生が話されるのには「ICTを活用して進めるプロジェクトだからこそ、交流して生まれるものや、リアルな集まりの大切さを知ってほしい」とのことで、この言葉の裏に、普段、大学生との関わりの中で感じられている小酒井先生の問題意識が読み取れます。この辺り、実際の大学生はどのように感じているのでしょうか。
今の大学生といえば、平成4年〜7年生まれ。デジタルネイティブと言われる彼らですが、生まれながらにデバイスやネットが世の中に存在したといっても、その距離感や価値観は個人によってかなり異なります。そんな彼らが、大学生になってデバイスを持つのが当たり前の生活をし、人間関係をどのように考えているのか興味深いところです。
先日行われたiTeahcersのイベント(「教育ICT本音トーク〜先生と生徒、互いの想いを形に〜」)では、今春卒業したばかり、小酒井研究室に所属していた北見紫織さんが、発表の中でその点についても言及していました。過去の自分の経験をベースに、大学でのICT活用が彼女にどのように影響したのか素直に語ってくれました。
「子供の頃は、携帯電話やコンピュータって悪者だと思い込んでいました」という言葉で始まった北見さんのプレゼン。小学生の頃は、自宅にあるPCをなかなか触らせてもらえず、また小学校の授業でもPCを使う機会はあったものの、先生から教えられたのは“ネットの危険性”だったといいます。
中学生になっても同じような状況が続いたそうですが、一方で、子供同士は、親世代に普及し始めた携帯電話を使ってメールをやり始めるようになったそう。「早く、自分の携帯を持ちたい」、そんなことを思いながら中学時代を過ごしたようです。
その後、高校生になった北見さんは携帯電話を持ったものの、学校では鞄の中に入れておくのがルール。当時は「前略プロフ」が盛んだった時代で、ここでも学校の先生からは、ネットの危険性について指導されたといいます。そのため、北見さん自身は携帯やPCに興味を持っていたものの、なんとなく「使うこと=悪いこと」のイメージを持ったまま大学へ進学したようです。
ところが、大学に入ってみると一転。玉川大学では1年生の頃から学習にデバイスを活用する場面が多くあったそうです。授業の配布資料をネット経由で受け取ったり、レポートをワードで提出したり、学務関係の手続きも各自のPCからアクセスします。
さらに、小酒井研究室に所属するようになってからはiPad miniも使うようになり、ノートテイキングに重宝したそうです。友達間でノートを共有する際はShareAnytimeを使い、時に、北見さんが入院してしまった際もShareAnytimeを使って、小酒井先生からリモートで研究指導を受けたりもしたと話しています。
小酒井先生が授業で使っているオンラインのクリッカーサービス「Clica(クリカ)」については、友達の異なる意見に触れることができた点が良かったと述べています。大学の授業は大人数で、みんなの前で手をあげて「はい」と発言するのは難しく、同じ教室の友達がどんなことを考えているのかを知る機会が意外と少ないと指摘。そのような場面で、自分のスマートフォンから文章で思ったことを発言したり、友達の意見に賛成や異議を唱えられたりするのは、とても有意義であったようです。
北見さんは、日本経営工学会優秀学生賞も受賞!
このように、大学の勉強や研究室の活動を通してデバイスを使うようになり、ICTを活用するメリットや面白さに気づいた北見さん。その一方で、「自分たちのような世代は、スマホやタブレット、PCは単なるツールではなく、コミュニケーションを作るツールだと考えている人が多いのではないか」という点も指摘。北見さん自身の中学や高校時代の経験にもあったように、そもそもデバイスを使うキッカケが友達とのコミュニケーションを楽しむことに端を発していたことから、教育現場においても学生間のコミュニケーションを意識したような、横のつながりを活発にするような使い方に共感を得やすいのかもしれないと考えます。
ただし、社会人になるにあたり、「コミュニケーションはツールに頼るのではなくて、Face to Faceが一番大切だと考えている」と話していたのも印象的。これには、小酒井研究室の活動が大きく影響しているようで、大学時代にICTを活用した学びに触れられたからこそ、リアルな交流の大切さにも気づくことができたといいます。
大学に入る前まで、デバイスやネットを使うことは悪い事だと思っていた北見さん。ですが、小酒井先生と出会い、授業や研究活動を通して、ICTを活用するメリットや面白さや現実の交流の大切さにも気づけたような学びの場が、子供の頃にもあればよかったと話しています。
そんな北見さんの話を聞いていると、リアルな人間同士の関わりの中で何を学んでいかなければならないかを教員や周りの大人がはっきり示す必要があるのではないかと感じたりもします。
小酒井研究室ブログ
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筆者KAYO の ひとりごと
小酒井先生、プレゼンや取材のとき、
オフレコ多すぎ!書けることを話して!
「世界一受けたい!親子iPad授業 〜iTeachers Special Live in Yokohama 〜」レポート
iTeachersカンファレンス 2014 Spring 〜教育ICT、成功への分岐点〜 (前編)
永野 / 片山 / 小酒井 /金子 / 栗谷 / 小池 先生
iTeachersイベントレポート<後編>
「iTeachers × iStudents プレゼンLIVE
〜ICTで変わる“新しい学び”のアイデア〜」
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