iTeachers
教育ICTを通じて「新しい学び」を提案する教育者チーム
iTeachers:
The Other Side
〜イノベーターたちの素顔〜
iTeachersメンバーや、教育ICTの分野で活躍する先生たちの取り組みをレポートするWeb連載。iTeachersのマネージャー的存在である、ライターの神谷加代さんが、それぞれの教育現場を取材。保護者そして主婦の視点から、先生たちの素顔に迫ります。
小学生2人の母親。結婚を機にサンフランシスコに渡米し、10年の在米生活を経て2010年に帰国。その後、主婦ブロガーとして 「家庭×教育ICT」に関する話題をメインにした『主婦もゆく iPad一人歩記』を執筆。家庭や教育におけるICTのあり方を主婦目線で描き、教育関係者をはじめとする多くの読者から支持を得ている。現在は教育ICTの分野を中心にライターとして活動中。著書に『iPad教育活用 7つの秘訣』
主婦ブロガー/ライター
神谷 加代
Kamiya Kayo
<記事一覧>
第9回 iTeachers イベント 6th
iTeachers カンファレンス 2014 Spring
〜教育ICT、成功への分岐点〜 イベントレポート(後編)
iTeachersの発足から1年経った2014年4月27日に、1周年を祝う記念イベント「iTeachers カンファレンス 2014 Spring 〜教育ICT、成功への分岐点〜」が開催されました。会場となった学研ホールディングス本社(東京・品川区)には関係者が200名も詰めかけ盛大なイベントとなりました。今回は、後半の模様をレポートします!
日曜日の午後にスタートした同イベントは、参加したiTeachersの先生8名が(佐賀・大和中学校 中村純一先生は欠席)、代わる代わる18分のプレゼンを披露するというスタイルで行われました。
プレゼンのテーマは「分岐点」。IT製品やサービスを教育現場に導入した後、現場では様々な課題が出てきますが、取り組みを成功へ導いていくためには、何が決め手となるのでしょうか?iTeachersの先生が自身の取り組みを振り返り、「ここが重要な分岐点だった」と思えることを発表します。
袖ヶ浦高校の永野先生から始まった前半は、デジタルハリウッド大学・栗谷先生、新潟大学教育学部附属新潟小学校・片山先生、そして玉川大学・小酒井先生へと続きました。
iTeachersの中でも 、何かを “しでかす感” がある個性派の先生たちが集まった前半90分。私の動画が突然流れたり、栗谷先生が映像の中から出て来たり、さらには、片山先生と小酒井先生のプレゼンが、“何事もなく” 時間以内で終わったり・・・と、前半を楽しませてくれました。
さて、後半のトップバッターは、大阪大学の岩居弘樹先生。やんわりした関西弁が魅力の岩居先生ですが、プレゼンのタイトルも「とりあえずやってみる」となんだかやんわり。力が入ってるのか、入ってないのか、よぅわからん(笑)。でも、プレゼンでは魅せてくれる先生です。
【Iwai's Turning point】
“言語学習のコンビニ” の形に、実現性が見えてきたこと
ドイツ語が専門の岩居先生は、恩師である故関口一郎先生の言葉を冒頭で紹介。「コミュニケーション中心の初級外国語教育はひとつずつでいいから、必要な文房具をワンセットそろえることだ。そうなると、私たち教師の側も、デパートのような大規模なものではなく、コンビニのようなコンパクトな店を提供してあげる必要がある」。
つまり、簡単な言い方でいいから必要最小限の言い方が学べるような方法を、語学教員が学習者に提供していく必要があるという意味で、文法重視だった語学教育において、早くからコミュニケーションの重要性を説いた関口先生の言葉だそうです。
岩居先生は、恩師の教え通り、コミュニケーション重視のドイツ語学習を長年に渡って実施。簡単なドイツ語で学生同士が自己紹介し合う1回目の授業の大切さを述べ、その後、様々なツールを使って、主体的に学ぶ学生の姿を動画で紹介。また現在は、ドイツ語だけでなく、インドネシア語、トルコ語、ベトナム語にも挑戦し、学習者に適切な「ツール」と「場」を与えれば、初級の外国語学習では、ある程度のコミュニケーションを図れることを、実際に受講した学生の感想とともに発表しました。
先生、ファシリテーター、コーディネータ、呼び方は何でも良いと岩居先生。ツールやサービスを学習者に上手く提供しながら、すぐに役立つものを与えられる ”言語学習のコンビニ” を作りたい、そして、教員はそこのオーナーでいたい。今、その形にようやく実現性が見えてきて、これが自分が感じた分岐点であったといいます。
後半2番目は、俊英館で教育ICTコンサルタント、そしてiTeachersの発起人でもある小池幸司先生。iTeachers結成1年が経ちましたが、いつも端で見ている私としては、よく、あの、個性的な先生たちをうま〜くまとめているなぁと、小池先生持ち前のバランス感覚に脱帽。そうかと思えば、ちゃんと、先生たちに「無茶ぶり」もできる、末っ子気質はさすが。意外かもしれませんが、そんな小池先生、iTeachersの最年少です(驚)。
【Koike's Turning point】
考える時間を重視した「教えない授業」を目指したこと
塾業界の中で最も早くiPadを導入した進学塾の俊英館。当時、その旗振り役を務めた小池先生は、受講生の考える時間を重視した「教えない授業」にiPadを生かせると考えたようです。俊英館では講師しかiPadを使っていないものの、時間短縮やコスト、新たなコンテンツ提供の形や指導方法などの面で成果をあげており、その取り組みの中で、3つの分岐点があったといいます。
①ワクワク感
②シンプルであること
③人とのつながり
まずは、自分がワクワクできるかが最初の分岐点だという小池先生。「なんかおもしろそう!」、そんな素朴な気持ちが上手くいくためには必要だということです。そして次に、シンプルであること。つまり、使いやすいかどうかが分岐点になるといいます。講師は授業中、難しい操作や複雑なことができないため、使い勝手の良さを考慮するのは、継続的な取り組みにおいては、分岐点に値するといえます。
最後は、人とのつながり。iPadだけ揃えても授業は成立せず、教えない授業をするためには、デバイス、コンテンツ、プラットフォームが必要だという小池先生。この3つを適切な形で構築するためには、外部の人と積極的につながり、協同しながら進めていくことが重要だといいます。新しい取り組みにおいて、その価値を築いていくのはツールやデバイスの力ではなく、人とのつながりだといえるでしょう。
続いては、広尾学園中学校・高等学校の金子暁先生。iTeachersの中では、いつも話題に事欠かない金子先生ですが、この日はイベントをダブルブッキングするという荒技を披露。本当にプレゼンの時間までに戻ってくるのかどうか、過去に前科のある金子先生だけにヒヤヒヤでございました(笑)。最近は、選ぶスタンプにも磨きがかかった金子先生のプレゼンです。
【Kaneko's Turning point】
「活用」だけに終わらず、ICTを「創造」のツールに位置づけたこと
ICT教育において先進的な取り組みをする広尾学園中学校では、2014年の春現在、在校生の2/3、約950名がiPadを所持しているといいます。同校でのBYODの取り組みも3年が過ぎ、今年は教員の要請も受けて「広尾学園 教育活動の規準2014」を新たに設けたとのこと。この中でICTの位置づけを、“すべての教育活動の土台”だとし、認識を新たにしたようです。
金子先生は、iPadを導入しても「活用」で終わっていたのでは、生徒を便利なユーザーにしてしまうだけだと指摘。ICTを、今までやってきた教育や現在抱えている課題と結びつけて、新しいものを作り上げる「創造」のツールとして使っていかなければいけないといいます。このような考えの背景には、2013年に、米グーグル社のエリック・シュミット会長が同校で講演したことがキッカケだといいます。シュミット氏の話や、同校で取り組んでいるロボット講座、プログラミング教育などを通じて、考え方がシフトしたようです。
広尾学園の今後の取り組みとして、金子先生が必要性を感じていることは、生徒によるテクニカルサポートの設置や、生徒のコミュニティーづくりだといいます。ICT導入は、間違いないなく生徒のメリットになると主張する一方で、自由と規制のバランスを考慮する必要があり、生徒自身がリテラシーを高めていけるような環境づくりは、ますます重要性を増してきたといえるようです。
最後のプレゼンテーターは、iTeachersが誇る名プレゼンター、神戸大学の杉本真樹先生の登場です。医師でありながら、「Macintosh」の誕生30周年にちなんで選ばれた、「重大な影響を与えた先駆者としての30人」のひとりで、情報発信力、影響力ともにピカイチな先生です。にもかかわらず、ご本人の趣味は「エクストリーム・アイロンがけ」という・・・山の上でアイロンかけながら転落された暁には、それはもう、日本のみならず、世界中の話題になるんじゃないかと思われます。
【Sugimoto's Turning point】
自分が投げかけたことに対して、”戻ってくるもの” が見え始めたこと
教員や医師は、自分が投げかけたものに対して、相手がどう感じ、どんな答えや反応を示すのか、それを予測することが大切ではないかと杉本先生はいいます。相手にただ情報を分かりやすく説明して伝えればいいというわけではなく、相手の動機付けになるような言葉を選び、語りかけていくこと。これが、プレゼンテーションや、ICT導入が進む教育や医療の世界において共通する部分だといいます。
杉本先生曰く、学習者が戻してくるもの、その中で最も大切だと思うことは、それが、「知的好奇心を満たしているか」だということです。デバイスやデジタルコンテンツなどを通して学んだ内容が、学習者の知的好奇心を満たしているか。満たしていれば、学習者は伝えたい気持ちが芽生え、次の学習者にそれが伝わり、広がりを見せる。そういう意味で、教育者は学習者の知的好奇心を満たすものを投げかけていく必要があり、ICTには、それを満たすだけの要素があるといいます。
例えば、ICTを使って、本物の内蔵データを見せてあげること。さらには、ICTを使って人とつながること。今の学生たちは、情報を多く得ているが、それらをどう活用していいかは、まだ知らずにいることも多く、「デバイスの中だけで終わらない」「ネットの世界だけで終わらない」使い方を教えていく必要があるといいます。
ICTを導入しても最終的には、「人を動かす」ことができるかどうかを大切にしていきたい。生身の人間を相手にしている医療と教育、その両方を知っている杉本先生の重みある言葉だと思います。
最後は、全員が登壇してトークセッション。8名の先生+司会を務めたスーパー高校生の山本恭輔くんが加わり、小池先生の進行で進められました。小学校〜高校までの先生たち「K-12サイド」と、それ以外の先生でなる「大学・社会人サイド」に分かれて、互いの質問を投げかけながら、それに答える形で進められました。
<K−12サイドから、大学・社会人サイドに出された質問事項>
1、ネット利用が多い大学生や社会人が陥りがちなマイナス要素は?
2、ICT教育の長期的持続について。教員の移動や校種により、生徒はICT 教育の環境が変わってしまう。そのことについてどう思う?
3、これからの社会で求められている能力は何か?
4、大学入試や入社試験は、今後どのように変わっていくか。
また変わっていくべきか。
<大学・社会人サイドからK−12サイドへ出された質問>
1、iPadを乱暴に扱う児童や生徒には、どんな風に接していますか?
2、ICT機器導入のデメリットは?
3、大学・社会人サイドの先生が、小中高で特別授業をするとしたら、
どういうものを望むか
4、iTeachersで活動する前とその後では、どのような変化があったか?
という感じで、たくさんの質問が出たトークセッション。小学校から大学、専門学校、塾と様々な校種の先生が揃ったiTeachersだけに、質問は多岐にわたりました。会場の参加者からも事前に質問が受け付けられ、多くの問題提起がされた貴重な時間でもありました。
5時間にも及んだiTeachers1周年記念イベント。その模様をざっとお伝えしましたが、いかがでしたでしょうか?もっと内容を知りたい、先生たちがプレゼンで話さない裏話を聞きたい、そんな方がいらっしゃいましたら、本連載執筆の神谷までご連絡を。
筆者KAYO の ひとりごと
金子先生が選ぶスタンプ、
びみょ〜すぎて、いつもウケる (笑)
「世界一受けたい!親子iPad授業 〜iTeachers Special Live in Yokohama 〜」レポート
iTeachersカンファレンス 2014 Spring 〜教育ICT、成功への分岐点〜 (前編)
永野 / 片山 / 小酒井 /金子 / 栗谷 / 小池 先生
iTeachersイベントレポート<後編>
「iTeachers × iStudents プレゼンLIVE
〜ICTで変わる“新しい学び”のアイデア〜」
永野 / 片山 / 小酒井 /金子 / 栗谷 / 小池 先生
iTeachersイベントレポート<前編>
「iTeachers × iStudents プレゼンLIVE
〜ICTで変わる“新しい学び”のアイデア〜」